『イギリス衰亡しない伝統国家』 / 加瀬英明 [著]

講談社
2000年5月発行
222P
ISBN: 4-06-272016-7
価格: 780円(税別

【目次】
第1章  伝統と現代が均衡する国
第2章  個性と田園の国
第3章  抑制と実利の国
第4章  「ブリード」精神の国
第5章  伝統を尊ぶ王室の国
第6章  異人種・多言語の国
第7章  独特の道をいく国
第8章  繁栄が続く孤立国家
第9章  現実的な妥協を選ぶ国
第10章 生き残る伝統国家

【詳細】
比類なき国家と民族の繁栄と安定の秘密を探る!!

「老大国」といわれながら、近年再び活気ある国となり、大国の地位を維持するイギリス。イギリス通の著者が伝統と進歩のイギリス的バランスを考察する。


『イギリス 衰亡しない伝統国家』〜「はじめに」より

 私はイギリスが大好きだ。一度、イギリスという国の魅力について、本を書きたいと思ってきた。

 これは、私の幼い日の記憶につながっているのかもしれない。私は生後六ヶ月の時に、ロンドンの日本大使館勤務になった父と母に連れられて、船でイギリスへ渡った。そして一九三九(昭和十四)年に、ヒトラーがポーランドへ進攻して第二次大戦が始まると、邦人家族の引揚げが行われ、母とともに日本へ戻った。私はまだ三歳だったから、イギリスの記憶というと、牧場や、乳母として連れ添ってくれた美しいイギリス娘のベティや、近所の遊び友達といった断片的なものしかない。

 それでも東京へ帰ってきた時には英語のほうが上手だったので、伯父や伯母を困らせた。私の子供部屋には「ウィニー・ザ・プー」(熊のプーさん)や、テディ・ベアの縫いぐるみや、イギリスの絵本があったから、ちょっとした出島のようだった。その後、精神の波長がどこかイギリス的なものに合ったまま、長じたのだったろう。

 私は仕事でイギリスへしばしば戻るようになった。といっても、私にとってアメリカのほうが通った回数や滞留した時間がはるかに長い。しかし、イギリスを訪れると、世界のどの国よりも心が和むものだ。しばらくして、私は幼児体験のためだけではけつしてないことに、気づいた。

 イギリス人は世界のなかで、日本人と気質や文化がもっとも共通している国民である。イギリス人は日本人と同じように慎みがあって、はにかむし、礼儀正しい。大陸の民のように饒舌でないし、理屈を振り回さない。日本の観光客がヨーロッパを訪れて、イギリスまで来ると、ほっとするという者が多いが、きっとそのためだろう。

 イギリス人の自然観も似ている。本文を詳しくお読み頂きたいが、一つだけ例をあげれば、イギリス人は今日でも日常生活のなかで長さや重さを計るのに、フィートや、ストーン(約六・三五キロ)を用いる。「フィート」は人間の足が、「ストーン」は石に基いているが、フランス人が無機的で的確なメートル法をつくったのと較べて、何と人間的なことだろうか。

 イギリスは特異な国だ。イギリスは先進国のなかで、因習をもっとも大事にしている国である。これほど先人たちが大切にされている国はあるまい。根がしっかりしている。現在と過去が優しく織りなされている。だから国民が落着いた生活を営んできたし、イギリスの民主主義は世界に模範を示しているといわれるほど順調に機能してきた。

 ところが、アメリカが中心となったグローバリゼーションが、イギリス社会をしだいに蝕みつつあるのは嘆かわしい。

 日本においても固有な生活文化が急速に破壊されるようになっている。よい伝統を守ってゆきたいものである。


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