加瀬英明のコラム
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  北朝鮮の脅威にどう対抗? 苦慮するトランプ政権
    Date : 2017/03/23 (Thu)
 北朝鮮が4発の弾道ミサイル弾を、日本海側の東倉生から発射して、3発が日本の経済水域に着弾した。

 北朝鮮が弾道ミサイルの試射を行ったのは、2月10日に日米首脳がフロリダで、会議を終えた直後以来だった。その時に、トランプ大統領は「北朝鮮の脅威への対処に、きわめて(ベリー・)高い優先順位を与えねばならない(ベリー・ハイ・プライオリテイ)」と、述べた。

 北朝鮮は今回のミサイル発射後に、「在日米軍を標的とした訓練」だったと、発表している。北朝鮮が同時に多数のミサイルを日本へ向けて発射した場合に、日本に迎撃して撃破する能力がない。

 トランプ政権にとって北朝鮮の脅威に対応することが、政権の信頼性がかかる噄緊の課題となっている。

 トランプ政権は北朝鮮の核施設を破壊する、外科的な軍事攻撃も辞さないという姿勢をとって、政権発足直後に日本の岩国にF35新鋭ステルス戦闘爆撃機を配備したが、どうするべきか苦慮している。

 トランプ政権はクリントン政権からオバマ政権にいたるまで、北朝鮮の核兵器開発を事実上放置してきたツケを、払わねばならない。

 どうするか? といって、北朝鮮の核施設を除去するために、限定的な攻撃を加えることはできまい。北朝鮮はソウルのすぐ北の軍事境界線に沿って砲列を敷いており、停戦までにソウルを火の海にすることができる。数十万人のソウル市民が死傷することがあれば、韓国はアメリカが戦争を挑発したといって、アメリカを恨もう。

 それに、トランプ政権は北朝鮮よりも、オバマ政権が深入りして、シリア、リビア、イエメン、ソマリアなど中東アフリカ諸国にアメリカ軍が介入してきたのを、引き揚げることを優先しているが、6ヶ月以上はかかろう。北朝鮮に限定的な攻撃を加えるとしても、朝鮮半島において全面戦争に発展する可能性を、想定しなければならない。現状では、アジアに十分な軍事力を割くことができない。

 だが、北朝鮮の金正恩委員長の危険な火遊びを、放置しておくことはできない。いくら北朝鮮の「暴挙」を非難して、経済制裁を強化しても、北朝鮮は核兵器なしに体制を守ることができないと確信しているから、核を捨てることはありえない。それに、中国が経済制裁の大きな抜け穴となっている。

 トランプ大統領は、6ヶ国協議や、オバマ政権が北朝鮮を「核保有国家」として認めないという愚かしい政策などに、まったく束縛される必要がない。

 そのようなしがらみがないから、北朝鮮の核弾頭や、ミサイルや、化学兵器について、北朝鮮と交渉することができる。トランプ大統領自身、選挙戦中に「金正恩委員長と会談してもよい」と、発言していた。

 私はアメリカが北朝鮮を核保有国として認め、核弾頭の数とミサイルの射程について制限を受け入れることと引き替えに、米朝平和条約を結ぶことを、主張してきた。金体制の至上の目的が、金体制の存続を保障することだから、喜んで交渉に応じよう。

 日本も北朝鮮と並行して交渉し、弾頭数と射程距離について合意すれば、日朝国交正常化を行い、1964年の日韓条約と見合った経済協力を、提供する。

 そうすれば、拉致被害者が全員帰国し、朝鮮半島に平和秩序が確立されることとなろう。


  トランプ政権のゆくえを読む 日本の最大の資源は「人」。なすべきことを着実に進めよ
    Date : 2017/03/22 (Wed)
 冷静な目で見るべきで言動に右往左往する必要なし

 トランプ大統領の一挙手一投足に世界中が翻弄されていますが、それほど過敏になる必要はないと私は考えています。

 そもそもオバマ前大統領の8年間は、少なくとも外交政策についてはひどいものでした。中国には南シナ海での実効支配を許してしまい、中東も混乱、ヨーロッパではウクライナもバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)も危険な状況になっています。もし、ヒラリー大統領が誕生していたとすれば、オバマ政権の第3期のような政権になっていたでしょうから、それよりはずっと良かったと私は考えています。

 まだ読めない部分もありますが、トランプ政権の経済政策では、長期的には円安傾向が続くと考えられます。大幅な法人税の減税、そして向こう10年間で1兆ドルの公共投資を行なうことを明言していますから、インフレ傾向が強まるでしょう。それを抑制しようとして金利が上昇し、その結果、ドル高円安が進み、長期的に見ればアメリカの輸出産業は伸び悩む可能性が高いと思われます。

 トランプ大統領は、国内雇用を増やすために、国外に工場移転する企業に対し重い国境税を課すと警告していますが、国内雇用、特に正社員が激減したのは、工場移転ではなく、AI(人工知能)のせいです。例えば、コンビニのATMがどれだけ多くの銀行員の職を奪ったことか。経営の合理化を進めるなかで起きたことですから、そこへの対応を考えないと根本的な解決にはなりません。

 また、トランプ大統領は、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を明言するなど輸入に高い関税をかける姿勢でいますが、そう簡単ではないと思います。かつて私は、福田赳夫内閣(在任期間1976年‐78年)で首相特別顧問という立場でカーター政権を相手に対米折衝を行ないました。アメリカ製のテレビが日本製のテレビに食われたため、日本製のテレビだけに高い関税を課しましたが、その分のマーケットシェアは韓国と台湾に奪われただけで、アメリカの国内状況は改善しなかったのです。つまり、特定の国を狙い撃ちにした関税はうまくいかないのです。

 アメリカの工業製品は、その部品の多くを輸入に頼っています。関税によって部品価格が高くなれば、結局はアメリカ国内で製造した製品も高くなります。つまり、今の世界で保護主義がうまく機能するとは思えないのです。

 世界恐慌が起き、ヒトラーという化け物が誕生し、第2次世界大戦が勃発した原因は、保護主義にありました。恐るべきことですが、今述べたような理由から、戦前のような保護主義にはならないと思っています。「グローバリズムの終わりの始まり」という人もいますが、輸入部品に頼らざるを得ない今の世界では、それは大げさです。トランプ大統領にもメンツがあるので今後、方針転換は難しいと思いますが、NAFTAにもてこずるでしょうし、TPP(環太平洋連携協定)からの離脱は結局損だということもいずれわかってくるでしょう。

 ですから、過度に恐れる必要はないのです。私たちはあまりにもトランプ政権の力を過大評価しているところがあります。冷静な目で見るべきで、その言動に右往左往しないほうがいいでしょう。

 学ぶことに謙虚で貪欲な日本人の遺伝子は今に通ず

 日本は長い目で見ると、経済的には強いと思います。なぜなら、政治的にも経済的にも社会的にも、世界で一番安定している国だからです。特に、中小企業がこんなに強い国は、日本の他にありません。

 日本の一番大きな資源は、「人」です。日本人のなかにある匠の心、和の心です。世界でも珍しいほど人の心を思いやる民族です。ものづくりにおいても、「人のことを思って作る」からこそ、いいものが作れるのです。

 それは近現代に始まったことではありません。縄文土器のデザインなどはどこにもないものですし、翡翠加工の技術をもっていたのは日本とインカ帝国だけでした。ポルトガルから種子島に鉄砲が伝来して以来、全国の大名が所持していた鉄砲の数は、ヨーロッパや中東の数倍にもなったと言われていますが、それは、日本の鍛冶技術が極めて優れていたからです。

 現在の日本の中小企業を見渡しても、世界のマーケットシェアの6、7割を占めるような部品メーカーが数多くあります。これは日本人の中に営々と受け継がれてきた和の心、そこから生まれた匠の心があるからです。

 「日本化」とでも言うのでしょうか。日本という国は不思議な国で、海外から取り入れたものに改善を加えて、良質で優れたものに変えてしまいます。それはものだけではなく、思想や文化でも言えることです。例えば、儒教はもともと人民を統治するための統治思想で、普遍的な優れた価値を生み出すものではなかったのですが、日本に来ると優れた精神修養哲学になりました。仏教もしかり。車に代表されるような工業製品も同様です。ありとあらゆるものがそうです。

 また、教育程度が高いことも日本の強みです。歴史的にみても、日本人は学ぶことに対して謙虚であり貪欲でしたが、その遺伝子は現在にもつながっています。

 こうした日本の素晴らしさを守っていけば、トランプ大統領がどう出ようが、臆することはありません。冷静に長い目で見ながら、自分たちがなすべきことを着実に進めればよいのです。


  軍艦行進曲、瓦解、侠気
    Date : 2017/03/21 (Tue)
 2月11日の建国記念の日に、鹿児島県霧島市が主催する祝賀市民大会に招かれて、記念講演を行った。

 毎年、建国記念の日に各地をまわってきたが、霧島市は天孫降臨の地であるから、身心ともに引き締まる思いがした。

 前日から、粉雪が舞っていた。当日は、例年市内に駐屯する陸上自衛隊の音楽隊が先頭に立って、市民が目抜き通りを日の丸の小旗を手に奉祝行進するが、高齢者が転倒するおそれから中止されて、屋内で挙行された。

 はじめに、音楽隊が明治以来の軍楽である『君が代行進曲』『抜刀隊』『軍艦行進曲』を、つぎつぎと吹奏した。軍艦マーチとして親しまれているが、日清戦争の前に鹿児島県出身の瀬戸口藤吉によって作曲された。

 市内の国分駐屯地は、海軍航空隊基地だったが、大戦末期に沖縄の空へ向けて特攻機が飛び立っていった。

 音楽隊が演奏を終えるたびに、会場を埋める市民から、盛んな拍手が送られた。

 それなのに、NHKをはじめ大手テレビが自粛して、軍歌を放映することがない。いったいシンガポールから、ガダルカナル、ペリリュー、サイパン、沖縄までの戦場において先人たちが戦ったことが、そんなに恥しいことなのだろうか。

 私は中曽根内閣で首相の顧問として、対米折衝を手伝った。中曽根総理が昭和58年に訪米した時に、レーガン政権が首相が大戦中に海軍将校であったことを知って、ホワイトハウスで軍楽隊が晴々しく『軍艦行進曲』を演奏して、歓迎した。外国政府が日本の軍歌を公けの場で演奏するのに、どうして日本ではできないのだろうか。

 昨年は、夏目漱石の没後百年に当たった。漱石は明治39年に『坊っちゃん』を発表しているが、幼い漱石を溺愛した女中が清という名で、登場する。「もと由緒あるものだったそうだが、瓦解のときに零落して、つい奉公する様になった」と、書いている。

 「瓦解」は、当時の人々によって徳川幕府が倒れて、封建制度が崩壊したのを意味する言葉として、ひろく用いられていた。

 私たちも72年前の敗戦によって、同じように瓦解を体験したが、時とともに国の芯が溶解してしまった。明治の先人たちが見たら、私たちは腑甲斐無い民となった。

 私は昨年末に、客観的な年齢によって80歳になったが、20代から働き盛りが続いている。筆耕と講演に忙しい。

 昨年、私は7冊の本を世に送ったが、書き下ろしが1冊、半分ずつ書いた共著が2冊、対談本が2冊、著作選集の第2巻目と、20代で新潮社からでた本を、祥伝社が復刻してくれた。

 本誌の前号に、中島兄哥(あにい)の同人の花田紀凱さんが寄稿していた。花田さんは、私にとっても古い仲間だ。今年に入って、花田さんの月刊『HANADA』に、2回寄稿した。

 私は20代から雑文を書いてきたが、『HANADA』4月号で当時を回想した。あのころは活字の全盛期だった。

 よく銀座で飲んだものだった。溜り場のようなクラブをどこか覗けば、新潮社、文芸春秋、講談社の編集者や、物書き仲間が来ていた。私のような駆け出しの筆者や、出版社の若い担当者でも、銀座の一流クラブで飲めた。作家や、マスコミの“学割”値段があったし、勘定の取り立ても厳しくなかった。

 ジャーナリストの生活は酒と締め切りに、ちょっとだけ正義感を混ぜ合わせると、できあがった。それに筆記用具、電話や、人によって嵩(かさ)が違う資料に、ちょっぴり自惚れ(うぬぼれ)を隠し味として、まぶせばよかった。

 銀座の酒肆(しゅし)では、自民党、民社党、日本社会党、総評、創価学会の幹部たちとよく行き合った。酒泉では誰も平等だった。こんな時には、階級闘争も、宗教的な抗争も忘れて、和気藹々(あいあい)として憂さを晴らした。

 そのころでは、まだ陰と陽の世界の区別がはっきりとしていたから、クラブの女性たちは、みなどこかで見えない苦労を背負っていた。もっとも、全国民が「人生は苦の連続だ」という雰囲気を引きずっていたから、酒の味も今よりほろ苦かった。

 今ではクラブの娘たちは、人生が楽の連続だと決めている。陰陽の区別がなくなって、OLや、シロウトがそのまま座っているようになっている。『熟年ニュース』の表紙の客車の真っ直ぐに立った、木製の座席の背が懐かしい。

 あの時代の男たちには、誰もが中島兄者のように侠気があった。酒肆のマダムたちは、気立てがよかった。

 いまでは、憂さといわずに、ストレスという。まるでロボットの部品が壊れたようだ。

 このごろのクラブの娘は、平気で本名を名乗る。気味悪い。源氏名(げんじな)という言葉も、理解しない。シロウトの娘もフェイスブックを使っているから、同じことだ。

「この丘に菜摘(なつ)ます児(こ) 家告(の)らせ名告(の)らさね」と、万葉集の巻頭に雄略天皇の有名な御製がのっているが、女性が相手に名を明かしたら、求愛に応じたことになった。『源氏物語』に登場する女性も一人として本名はない。

 近頃の女性は放縦で、露骨で、はじらうことがない。男女の違いがなくなった。いつのまにか「男港」「女港」「男坂」「女坂」といった言葉も、死語になってしまった。

 一事が万事だ。私たちの日本から、減(め)り張(は)りがなくなってしまった。グローバリゼーションとか、国際化といった締りがない言葉が、日本も外国も区別がない、のっぺらぼー――目鼻のない化け物のような、掴みどころがない社会をつくってしまった。

 制定されてから71年たつ、日本の独立を奪う「平和“無抵抗”憲法」のせいだろうか。

 私たちの手に日本を取り戻すために、中島兄哥に先棒(さきぼう)を振ってもらわねばなるまい。

(中島繁治氏は日大OB誌『熟年ニュース』主催者)


  誰にも止められない日米メディアの暴走
    Date : 2017/03/10 (Fri)
 トランプ大統領が就任してからじきに1ヶ月たつが、日本のテレビをつけると、“トランプ叩き”に熱中している。

 正視できないほど、酷い。新聞もアメリカの主要メディアを模倣して、“トランプ苛(いじ)め”を行ってきた。新聞は活字媒体だから、視覚や聴覚を疲れさせないが、テレビは落着きがない。活字が本から生まれたのに対して、テレビの出自が娯楽映画にあるからだろう。

 アメリカの主要メディアは、大統領選挙中にこぞって知的支配体制(エスタブリシメント)の旗手である、ヒラリー夫人を応援してきたのにもかかわらず、大敗したために、その深い怨みがある。ニューヨーク・タイムズをとれば、日本でいえば“朝日新聞的良識”だといえよう。

 日米のマスコミは、トランプ大統領が無知、恥知らずで、乱暴であるのに対して、オバマ大統領が対照的に、知的で、節度があって、穏健だったという、イメージを描いている。
 だが、そうだろうか。オバマ大統領が8年前に受け継いだブッシュ息子政権は、2001年にイスラム過激派のアル・カイーダによって、ニューヨークの世界貿易センター・ビルが破壊されると、アフガニスタンを攻撃した後に、イラクに大挙して殴り込んで、サダム・フセイン政権を倒した。

 オバマ大統領はこの2つの戦場を引き継いだが、2010年に“タカ派”のヒラリー・クリントン国務長官とともに、民主主義を中東に広めるという名分を翳(かざ)して、リビアに軍事攻撃を加えて、カダフィ政権を倒した。

 そして、その勢いを駆って、シリアのアサド政権も倒すと宣言して、シリア全土を戦場に変えた。大失敗だった。

 オバマ大統領は躊躇(ためら)うことなく、国外に軍事介入してきた。そうすることによって、ブッシュ政権よりも戦場の数を2倍以上、増した。アメリカ国防省によれば、昨年だけでアメリカ空軍は、7つの国に対して26000発以上の爆弾を投じている。

 それに、ブッシュ大統領はアフガニスタン、イラクを攻撃した時に、議会から事後に承認する決議を取りつけたが、オバマ大統領は任期中に国外に軍事介入するのに当たって、大統領権限を行使するのにとどめ、一度も議会の承認を求めていない。

 オバマ政権は遠隔操作のドローンを使って、中東や、パキスタン、アフリカ諸国を攻撃するのを好んだ。前任者のブッシュ大統領は任期中にドローンを50回も用いたために、「ドローン大統領(ザ・ドローン・プレジデント)」とアダ名されたが、オバマ大統領はその10倍以上の506回も、ドローンによる攻撃を承認している。

 オバマ大統領は国連総会で、「力は正義で(マイト・メイクス・ライト)はなく、正義が力だ(バット・ライト・メイクス・マイト)」と演説したが、何と虚ろな言葉だったろうか。
 オバマ大統領は就任直後に、核兵器廃絶を訴えたことが認められて、ノーベル平和賞を受賞したが、その後、オバマ大統領が好戦的な政策をとってきたために、ノーベル賞委員会のゲイアー・ルンドスタッド事務総長が、オバマ大統領が受賞したのは「誤りだった」という、談話を発表している。

 それでいながら、オバマ大統領は肚が据わらないために、中国が南シナ海に7つの人工島を造成して軍事化し、ロシアのプチン大統領がウクライナに侵略して、クリミア半島を併合しても、手を拱(こまね)いて見過した。

 日本の新聞や、テレビはトランプ大統領の就任直後に、有志による核科学者委員会による「人類破滅の時計(ドゥームス・ディ・クロック)」の針が、真夜中――破滅の2分30秒前のところまで、進められたことを報じていた。

 私は1962年にソ連がキューバに核ミサイルを持ち込むことをはかって、米ソが核全面戦争の一歩手前まできた時に、アメリカに留学していたが、この「破滅時計」が真夜中の7分前まで進められたのを、憶えている。

 この時計も、マスコミの報道も、いい加減なものなのだ。


  トランプ大統領 就任式の言葉
    Date : 2017/02/28 (Tue)
 1月20日のトランプ大統領の就任式は、日本時間では午前2時から始まったが、私は眠い目をこすりながら、就任演説を聞いて感動した。

 トランプ大統領は演説のなかで、聖書からといって、「見よ、兄弟が共に座っている」という句を引用したが、私は学生時代から、ユダヤ・キリスト教の聖書に親しんできたので、すぐに『詩篇』の一節だと、分かった。

 アメリカが身のほどを弁えるようになった

 戦後の歴代の大統領の就任演説のなかで、もっとも格調が高いと思った。

 短い演説のなかで、アメリカの民主主義を世界に広めようという呼び掛けが、まったくなかった。

 これまでアメリカは“アメリカの理想”と民主主義を同一のものとして混同して、世界をアメリカの覇権のもとに置こうとはかって、自国にもしばしば災いをもたらしてきた。デモクラシーは、アメリカニゼーションの別名だった。

 ブッシュ息子政権がイラクのフセイン政権を倒し、オバマ大統領とクリントン国務長官がリビアを攻撃して、中東の安定を壊したのが、好例だった。

 私は昨年の大統領選挙で、ヒラリー夫人が敗れてよかったと思った。もし、ヒラリー夫人がホワイトハウスの主人となったら、オバマ政権の8年間の惨憺たる対外政策を引きずることとなった。

 アメリカのアジアの平和への寄与は何か

 オバマ政権は南シナ海を中国へ熨斗(のし)をつけて献上し、リビアのカダフィ政権を倒したうえで、シリアのアサド政権を攻撃することによって、中東を収拾できない混乱に陥れ、プチン大統領がウクライナからクリミア半島を奪ったのに、毅然として対応しなかったために、ヨーロッパを不安な状況にした。

 たしかに、トランプ政権は予測できない。しかし、ヒラリー夫人政権が登場した場合には、オバマ政権の3期目となって、世界が安定を失うことになったから、トランプ政権に期待した。

 アメリカ鷲が中国龍に立ち向かう

 それにしても、日本のマスコミはアメリカのメディアが選挙戦中に、“トランプ叩き”に耽ったのを模倣して、トランプ大統領が「政治のまったくのシロウトだ」とか、就任時の支持率が40%台で、オバマ大統領の就任時の80%や、カーター大統領の就任時の支持率より低いといって、腐(くさ)すのに没頭した。

 だが、オバマ大統領が大統領選挙に出馬するまでは、菅直人氏と同じ市民活動家にすぎなかったことには、触れない。それに、就任時に支持率が異常に高かった大統領は、みな失敗している。トランプ大統領の就任演説は世論調査によれば、60%以上が評価した。

 メキシコとの壁も、オバマ政権が半分までつくっていたし、中東・アフリカ7ヶ国から入国を一時停止したが、オバマ政権が7ヶ国を“テロ支援国家”として指定していた。

 世界の大きな不安定要因が、中国である。中国の習近平主席は「偉大なる5000年の中華文明の復興」を呼号して、アジア太平洋地域を華夷秩序のもとに置く、古代帝国を呼び戻す夢に耽っている。習主席はオバマ政権が中国という龍を躾けることがなかったために、我儘いっぱいに振る舞ったが、トランプ政権は身のほどを弁えさせようとしている。

 日本はトランプ政権と足並みを揃えて、中国、北朝鮮の脅威に対して戸締りを固くすればよい。

 アメリカ、世界の雇用の減少は自動化が主因

 日本の経済界はトランプ大統領が「アメリカ第一」といって、保護主義を振り翳しているのに、一喜一憂している。

 アメリカでは多くの工場が国外に移り、多くの店舗が廃業して、日本と同じシャッター街が出現している。私はワシントンに通っているが、この15年以上、都心に飲食店を除くと、書店や洋品店が1軒もなくなった。

 だが、人々が職を失っている大きな原因は、工場が国外へ移ったからではない。自動化による人減らしが元凶だ。

 私はATMの前を通るたびに、何人の銀行員が職を失ったものかと思う。ついこの前までは、銀行の窓口へゆくと多くの男女が働いていたのに、閑散としている。「経営の合理化」は人を減らすことだ。

 ネット通販の普及とデパート、小売業の生き方

 日本でもアメリカでも、人件費が低いネット通販によって、店舗が廃業を強いられている。百貨店の郊外店がつぎつぎと店閉いしているが、アメリカでも老舗百貨店が同じ憂き目にあっている。

 特定国を狙い撃ちして輸入関税をかけても、うまくゆくまい。カーター政権の時に日本製テレビがアメリカ市場を席捲したので税率をあげたが、韓国、台湾製によって取って替わられただけだった。

 トランプ大統領は35%の法人税を15%に、所得税も下げるといっているが、税率は議会が決めるから、そこまでゆくまい。それに向う10年で1兆ドルのインフラ投資を行うことになれば、日中を為替操作国だと非難しても、景気が良くなればドルが強くなる。

 日本人らしさを尊ぶことが道を開く

 私は日本経済について、日本人が日本人らしささえ失わなければ、力を失うことはないと信じている。

 日本は太古の昔から、匠の国であってきた。昨年、新潟の糸魚川市が大火に見舞われたが、いまでも翡翠(ひすい)を産出する。縄文時代に遡れば、世界で日本と南米のマヤ文化だけが、固い翡翠を研磨する技術を持っていた。

 1543年に鹿児島県の種子島に、ポルトガル人を乗せた中国船が漂着して、島主が2挺の火縄銃を購入した。鉄砲伝来として知られるが、刀工の高い技術があったから、1挺を分解してすぐに国産銃を造った。

 その僅か32年後の1575年に、織田信長・徳川家康連合軍と、武田勝頼軍によって長篠の合戦が戦われた。信長が3000挺の火縄銃を3段に分けて、武田の騎馬軍団を撃滅した。イギリスの学者による日本の戦国時代の鉄砲について優れた研究書があるが、当時、日本の大名が所有していた銃の数は、ヨーロッパとアラビアにあった鉄砲の総数を、大きく上回っていたという。

 そのうえ、日本製の銃のほうが、ヨーロッパ製の銃よりも、射程、命中精度とも優っていた。

 心が良質な製品をつくる

 日本の刀匠は冶金と技において、世界を凌いでいた。今日、1000件(国宝は点でなく件で数える)あまりの日本の国宝のなかで、もっとも件数が多いのが、日本刀とその付属品である。

 日本刀ほど美しい金属は、世界に他に存在しない。刃文が光に美しく映えるのを匂うというが、紫式部が輝くように美しい女性を匂うと表現しているのを、思う。

 『源氏物語』は1004年から12年ごろに書かれたが、あのころの日本は中国から伝わった溜め漉きから、流し漉きを発明して、世界一の製紙先進国となっていた。

 日露戦争は明治元年に開国してから、36年後に戦われた。極東の小国にしかすぎない日本が、西洋最大の帝国だったロシア帝国に勝って、世界を驚倒させた。

 日本の日露戦争における勝因の一つに、既存の火薬より威力がはるかに大きい、下瀬火薬の発明があった。日露戦争中に使用された国産の三十年式歩兵銃や、三一式速射砲も外国製に劣らなかった。

 2000年をこえる日本の力は自己を未だしと想う心

 今日でも、日本製品の品質が高いのには、和の文化が働いている。日本人は自分のためでなく、人々のために精根を込めて造る。

 それでいながら、日本人は自信がない。日本人は世界のなかで、もっとも謙虚な民だ。

 天皇は世界でもっとも謙虚な人であろう。多くの歴代の天皇が「朕が徳菲薄」とか、「不明を恥じ」と述べ、光格天皇のように朕といわずに、自分を「愚」と呼んでいる。中国、朝鮮半島ではありえないことだ。

 自信を欠いて、いつも一喜一憂するのも、日本人の力であろう。


  朝日新聞はポルノ新聞である
    Date : 2017/02/27 (Mon)
 私と朝日新聞の付き合いは、長い。私は『文芸春秋』時代の花田さんにもお世話になったが、朝日新聞批判の草分けの1人だ。

 私は文芸春秋の田中健五氏が『諸君!』の編集長のころに、同誌によく新聞批判を執筆した。そのうちに『文芸春秋』本誌(1975年11月号)に、400字詰めで80枚以上にわたる、朝日新聞批判を書いた。田中氏はその時に本誌の編集長だったが、「最近朝日新聞紙学」という、よい題名をつけてくれた。

 朝日新聞がすぐに社会面で「事実無根の中傷」だといって、大きく取り上げたうえで、謝罪を要求する内容証明書を送ってきた。

 私は福田恆存氏と親しかったが、ぜひ裁判をやろうといって、激励してくれた。黛敏郎氏、村松剛氏や、香山健一氏も応援団に加わるといってくれた。私は新聞の拡販戦争から偏向問題まで争われる、画期的な「新聞裁判」になっただろうから、そうしたかった。

 ところが、財界人や、『経済界』の佐藤正忠氏をはじめとする著名な人々が、朝日側に立って仲裁を買ってでて、私に話し合うようにすすめた。結局は朝日新聞社も、文芸春秋も戦いたくなかったので、曖昧きわまる形で手打ちが行われた。

 30年か、40年前までは、銀座の溜り場のようなクラブをどこか覗けば、新潮社、文芸春秋、講談社の編集者や、物書き仲間が来ており、朝日新聞の記者なども加わっていた。

 新宿三丁目に小さな「チャオ」というバーがあったが、その常客のなかに、朝日新聞の投書欄の『声』を担当していた、佐々克明氏がいた。私はたいへんに親しかった。佐々氏の尊父は戦中戦後の朝日新聞の論説委員で、終戦の前日の8月14日の「鬼畜米英を討て」という社説を書き、その2日後に「平和の師表たれ」という社説を書いたことで知られた。

 昨年12月8日から20数年ぶりに朝日新聞を購読するようになったが、投書欄はまだ『声』と呼ばれている。
 
 佐々氏は常連の投稿者に、投書を発注するのが仕事だった。今でもそうなのかもしれないが、当時は朝日御用達のセミプロの投稿者がいた。私は佐々氏が常連の投稿者に、電話で発注する現場にいたことがある。

 あのころから『声』のなかみは、いまでも変わっていない。民主主義は多様な意見のうえに成り立っているのに、投書欄まで朝日新聞の論調に合わせている。読者に目隠しするものだ。

 今年1月3日の『声』をとると、「平和や環境分野で世界に貢献を」「戦争せず国を守る方法考えて」「核廃絶で日本が先頭に立て」「米軍脅威から国民の命守れ」といったように、朝日新聞社の眼鏡に適った主張だけが、並んでいる。

 「平和環境分野で」という82歳の男性からの投書は、「シリアや南スーダンで戦闘が続き、イスラム過激派による欧州でのテロも続いている。年末にはロシアの駐トルコ大使射殺事件も起きた。(略)心が痛むばかりだ」と述べ、「政府には今こそ、国際平和や人権、地球環境保護の分野で貢献して、世界中から評価を得られるような外交を期待したい」と、勧めている。

 人権、環境保全によって、戦争や、テロに対抗することはできない。あとの投書も現実から目をとじるものばかりだ。自衛隊を増強して戦争を阻止せよとか、中国が日本を核ミサイルの標的にしているのを放置してよいのかという声を、採用することは絶対にない。

 私は販売店に頼んで契約日より前の新聞も届けてもらった。読むと、12月6日の『天声人語』も振るっていた。
「退位に反対する人の多くから、『天皇は国民にとってまず神道の大祭司』『存在の継続が国民統合の要』『宮中でお祈り下さるだけで十分』『いてくだされるだけでありがたい』といった発言が相次いだ。宮中祭祀を天皇の公的行為と位置づけるべきだという訴えもある。これらの主張は多くの国民の意識からかけ離れ、一部は政教分離の原則にも反する」

 陛下は8月8日のお言葉のなかで、「私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えてきました」と、仰言せになられている。朝日新聞の主張は、陛下のお考えからかけ離れているが、それならどうして陛下を批判しないのだろうか。

 一つ覚えのようにひたすら護憲を宗旨としているのに、変わりがない。

 12月19日の夕刊に、「『憲法くん』の魂 もっと広がれ」という見出しで、『憲法くん』という絵本の表紙のカラー写真と、絵本のなかの2ページを載せていた。

 「憲法くん」は、主人公の少年だ。見開きのページの下に、「わたし、憲法くんといっしょにくらした70年間は、しあわせではなかったのですか?」という、主人公の言葉が載っている。私なら「アメリカの軍事保護のもとで、憲法くんといっしょにくらした‥‥」と、書き直したい。私はアメリカが71年前に、日本を完全に非武装化することをはかって押しつけた現行憲法を、「平和憲法」よりも「平和無抵抗憲法」と呼ぶことにしている。

 絵のなかに、平和に暮している親子や、遊びに興じる子どもたちや、のどかな田舎の景色が描かれているが、在日米軍兵士の姿を加えるべきだった。

 記事は「憲法くん」の「理想と現実がちがっていたら、ふつうは、現実を理想に近づけるように、努力するものではありませんか」という言葉によって結ばれていた。

 それだったら、朝日新聞記者が「憲法くん」と一緒に、「『憲法くん』の魂、もっと広がれ!」と叫んで、中国の圧政下にあるモンゴルや、新疆、チベットや、ウクライナや、シリアなどの戦場を訪れて、理想を説くべきだ。

 少年の生命を危険に曝すことになるが、無事に日本に帰ってくることができたら、どれだけ「現実を理想に近づける」ことができたか、記事を書いてほしい。

 朝日新聞の論説委員や、記者は、笑いの名工だ。だから、朝日新聞は他紙よりも楽しい。

 今日、日本が保守化して左翼が孤立化するようになったから、朝日新聞を読むたびに気持よく笑えるが、1970年代には、朝日新聞が日本を滅ぼしかねなかったから、真剣に憂えた。

 いま振り返っても、悪夢を見るように思い出すが、1972年に日中国交正常化が行われた時の朝日新聞は顔を赧(あか)らめずに、読むことができなかった。

 田中角栄首相が北京空港に降りたった日の夕刊は、1面に「日中いま握手」という大見出しが、横切っていた。

「〔北京25日=西村特派員〕その時の重く、鋭い静寂を、何と表現したらいいだろう。広大な北京空港に、いっさいの音を失ったような静けさがおちてきた。1972年9月25日午前11時40分、赤いじゅうたんを敷いた飛行機のタラップを、黒い服の田中首相がわずかに体を左右に振りながら降りてきた。まぶしそうに空を見上げ、きっと口を横に一文字に結んで、周首相の前に進んだ」

 「‥‥これは夢なのか。いや夢ではない。今、間違いなく日中両国首相の手が、かたく握られたのである」

 「実際には、その時間は1分にも満たなかったはずであった。記者団の群れにまじった欧米記者たちの不遠慮な声もしていたかもしれない。しかし、その時間は、もっと長く感じられた。なんの物音もしなかったと思う。40年も続きに続いた痛恨の時間の流れは、この時ついにとまった。その長い歳月の間に流れた日中両国民の血が涙が、あふれる陽光のなかをかげろうのようにのぼっていく――ふと目まいに誘われそうな瞬間のなかでそんな気がした‥‥」

 私はこの朝日の特派員が、首相が北京空港に着くまで安酒を呷っていたのではないかと、心配した。

 私は雑誌に、新聞記者はどのような状況に出会っても、目まいを起してはならない。それに日本であれ外国であれ、記者たちはいつも「不遠慮な声」を出しているものではないかと、書いた。

 社会面をひろげると両ページにわたって、「待ちかねた朝 東京 北京 広く高い青空」とか、「ニーハオ こんにちは 日中新時代へ飛行 首相、平静ななかに緊張 超党派の激励を背に『角さん、頼んだぞ!』 TVに食入る市民の目」といった見出しが、散らばっていた。

 朝日新聞はこの3日前の社説で、「日中新時代を開く田中首相の訪中」と題して、田中訪中をきっかけにして日中ソ三国が「不可侵条約」を結ぶことが可能になったと、主張していた。

「‥‥日中正常化は、わが国にとって、新しい外交・防衛政策の起点とならねばならない。日米安保条約によって勢力均衡の上に不安定な安全保障を求める立場から、日中間に不可侵条約を結び、さらにその環にソ連をひろげる。あるいはアジア・極東地域に恒久的な中立地帯を設定する。そうした外交選択が可能となったのである」

 これには、爆笑させられた。当時、中国は中ソ戦争に脅え、ソ連の侵攻を恐れて、全国にわたって人民がもう数年にもわたってシャベルを持って動員されて、防空壕を掘り続けていた。

 この時から、私は朝日新聞の縮刷版は滑稽本に分類すべきだと、信じるようになった。笑い話だから、「憲法くん」の白昼夢のように、足が地にまったくついていなかった。

 私はいまでも朝日新聞記者や、編集幹部と親しくしている。

 退社後におちあって、浅酌しながら内外の情勢について話すが、みんな、まともな人たちだ。私とほとんど意見が変わらない。

 ところが紙面を手に取ると、平和憲法を守れとか、日本は戦犯国家だから、中国、韓国に配慮しなければならないといった、いつも変わらない“朝日節”ばかりだ。

 私はなぜまともな記者や、編集者が、あのような紙面をつくるのだろうかと、思い悩んでいた。そしてある時、答が閃(ひらめ)いた。朝日新聞は「ポルノ出版社」なのだ。朝日新聞の記者や、編集幹部も同じように、勤務中は煽情的なポルノ記事を書かなければならない。

 戦前、戦中は読者の戦意を高揚すべく勤しんだ。そのおかげで部数は伸びたが、戦争が終わると朝日新聞社は2人がA級戦犯容疑者として、投獄された。主筆、副社長だった緒方竹虎氏と、副社長の後にNHK会長、内閣情報局総裁だった下村海南氏だ。

 私にとって東京裁判は戦勝国によるおぞましい私刑(リンチ)だったが、この社説は東京裁判の正当性を認めている。「勝者による裁きという批判もある」というなら、もっと説明してほしい。

 日本は独立を回復するのに当たって、東京裁判の判決を執行することを受け入れざるをえなかったが、裁判そのものは認めていない。

 日本だけに戦争責任を問うことはできないが、朝日は「それでも、日本はこの裁判を受け入れ、平和国家としての一歩を踏み出したことを忘れてはならない」という。

 朝日新聞は先の戦争中には、「神州不滅」「一億玉特攻」を叫んで、大和魂さえあれば勝てると説いたが、日本国憲法さえあれば、日本は不滅だという精神論と、少しも変わっていない。

 朝日新聞が売国的だといって憤っている人々がいるが、ポルノ出版社だと思えば、怒ることができないだろう。


  トランプ政権は対中強硬派が勢揃い 慌てる中国・習近平主席
    Date : 2017/02/22 (Wed)
 トランプ政権が発足した。トランプ大統領は、「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン!」(アメリカを再び偉大な国家としよう)というスローガンを唱えて、ホワイトハウス入りした。

 中国の習近平国家主席が「偉大なる5000年の中華文明の復興」を叫んでいるのと、何と、よく似ていることだろうか。「メイク・チャイナ・グレイト・アゲイン」と、訳することができる。

 習主席は機会あるごとに公の席上で、「戦争に備えよ」と呼び掛けている。

 他方、トランプ大統領候補は選挙事務所に、レーガン大統領と西部劇の名優のジョン・ウェインの等身大の写真を飾っていた。大衆に訴えるために、乱暴な口調を使ってきたが、私には「メイク・アメリカ・タフ・アゲイン!」と、聞こえた。

 トランプ大統領は、当選後に台湾の蔡英文総統に電話をしたうえで、「“1つの中国”政策によって縛られない」と述べて、習主席という龍の鱗(うろこ)を逆か撫でした。

 習主席はトランプ大統領が中国がアメリカから一方的に巨額の貿易黒字を稼ぎだしているのは、許せないというかたわら、ティラーソン国務長官が中国が南シナ海に埋め立てた人工島に、近づけないようにすると発言したのをはじめ、政権の中枢に対中強硬派が勢揃いしているのに、慌てふためいているにちがいない。

 これから、龍とアメリカ鷲が鱗と羽根を散らして、大喧嘩を始めるのだろうか?

 習主席は2期目の5年をつとめるために、目前に改選を控えているから、アメリカと波風を立てたくないはずだ。といって、タフな指導者を演じなければならないから、アメリカに対して断乎たる姿勢を、とらなければならない。

 トランプ大統領からみれば、中国がアメリカ市場から年間3200億ドル(約35兆円)以上の貿易黒字を稼ぎだして、海軍の拡張に注ぎ込むかたわら、札束で周辺の諸国の頬を叩いて、アメリカ離れをはかっているのは、何とも我慢できない。

 習主席は中国がこれまで自由貿易のルールを蹂躙してきたのにかかわらず、トランプ大統領の就任直前に、ダボスにおける世界経済フォーラムに出席して、似つかわしくない自由貿易の旗手として振舞った。いかに、たじろいでいるか示した。

 トランプ氏は“メガホン候補”だったが、「中国からの輸出に45%の関税をかける」と、脅していた。

 米ソの冷戦下で、ソ連はアメリカとの貿易に依存していなかったが、中国は経済がアメリカ市場に寄生している。いま、習主席の中国は経済が断崖まで追い詰められており、アメリカ鷲と渡り合ったら、体制の土台が大きく揺れかねない。

 日本では一部に、トランプ政権が日本の頭越しに米中が手を握って、日本が孤立するのではないか、杞憂する声がある。つまらない取り越し苦労だ。

 トランプ政権は、アメリカの歴代政権がこれまで中国に媚びて、台湾を軽視してきたが、台湾を守る姿勢を明らかにしよう。

 日台間には公的な関係がまったくないが、敵性勢力が台湾を支配下に置くことがあったら、日本は独立を維持することができない。アメリカが台湾を重視するのを歓迎したい。


  国境を無視する中国の脅威と日露外交
    Date : 2017/02/09 (Thu)
 私は12月にロシアのプチン大統領が来日する直前に、新聞に北方領土の返還を期待することは、とうていできないと寄稿した。

 私の予想通りになった。日本のマスコミはロシアが譲歩するかもしれないという、甘い見通しを流していたが、ロシアに食い逃げされた。

 ロシアは戦争によって奪い取った領土を、返すことをしない。

 私は4月に晩餐会で、アファナシェフ駐日ロシア大使と隣席した。プチン大統領がシリアを爆撃したパイロットに勲章を授ける映像を、テレビで見た後だったので、話題にしたところ、「わが国では勲章を貰ったら、ウォッカをなみなみとついだグラスにポトンと落し、一気飲みするのがマナーです」といった。気が荒い人々だ。

 ロシアの夏は短い。麦の収穫を慌てて、大急ぎですまさねばならない。細かいことに構っていられないから、繊細さを欠いている。

 ロシア人は力しか、信じない。ロシアは9世紀の小さなキエフ公国が、今日の世界最大の領土を持つまで膨張したから、国境という概念がない。この点、中国と共通している。

 「偉大なるロシア」という言葉が、ロシア人を酔わせる。中国人が習近平国家主席の「偉大なる五千年の中華文明の復興」という呼び掛けに、奮い立つのとよく似ている。

 プチン大統領は「冷戦によって、ソ連が解体したのが、20世紀の世界の最大の悲劇だ」と公言している。まだ冷戦時代に生きているのだ。毛沢東以来中国の最高指導者が、中華大帝国の復興を夢みてきたのと、変わらない。

 プチン大統領の国内支持率は、2014年に原油価格が暴落してから経済状況が悪化し続けて、国民生活を圧迫しているにもかかわらず、80%を上回っている。プチン大統領が2014年にウクライナからクリミア半島をもぎ取り、中東のシリアに軍事介入してアメリカにひと泡吹かせ、勢力圏を拡げていることに、国民が喝采しているからだ。

 日本政府は、プチン大統領にシベリア振興を中心とする、「8項目の経済協力プラン」を提案して、受け入れられた。ロシアは先端兵器はつくれても、消費材は何一つつくれない。石油、天然ガス、金、ダイヤモンドなどの採集経済に依存している縄文時代の国だから、そううまくゆくまい。

 「8項目の経済協力プラン」の第1項目が、「ロシア国民の健康寿命を伸長する」ことだ。だが、ロシア国民が短命なのは、医療の問題ではない。

 ロシア人はアルコールといっても、ウォッカ浸しになっている。もっとも安価なウォッカは、1瓶190ルーブル(約330円)するが、密造のウォッカなら100ルーブルあまりで買える。

 12月にシベリアのイルクーツク市で、メチルアルコールが入った入浴剤を飲んだために、71人が死んだことが、日本でも報じられた。このような入浴剤は70ルーブルで買える。密造酒や、代替品による死者が多い。

 ロシア経済は縮小しつつあり、昨年度のGNPはマイナス4%に陥っている。そのかたわらで国民の高齢化、少子化が進んでいる。

 毎年、プチン大統領は筋肉隆々の上半身を誇示した、カレンダーを発売してきたが、ドーピングに用いられる筋肉増強剤の成長ホルモン(HGH)と、男性ホルモン剤のステロイドを注射しているという、噂があった。

 ロシア選手団が昨夏のリオ五輪大会からドーピングのために締め出されたから、私は今年のプチン大統領のカレンダーから、裸の上半身の写真が消えるだろうと思ったが、その通りになった。

 ドーピングすると気持ちが高揚するが、ボディビルに打ち込む者は、自己愛に溺れるナルシストが多い。プチン大統領もその1人だ。

 それでも、日本は中国の脅威に対抗するために、ロシアと手を結ばなければならない。


  佳人に心がときめくのは若さの証し
    Date : 2017/02/08 (Wed)
 年末が近づくと、80回目の誕生日が巡ってきた。

 もうすぐに80歳になるのだと、とうてい主観的に納得することができないが、客観的にいってその年齢に達するのだろう。

 きっと、男のなかには誰もが少年が棲んでいて、齢(よわい)を重ねることを拒むにちがいない。

 暦が12月に入ってから、ふと、魏王となった曹操(155年〜220年)の「去日苦多 何以解憂(去る日はなはだ多し、何を以て憂を解かん)」という句を、思い出した。たしか、「酒を酌んで自らをェ(ゆる)し」と続いている。

 曹操は戦国時代の英雄の1人だが、武将としてだけではなく、文人としても名高い。「苦」は「はなはだ」、「著しく」という意味である。

 12月なかばに、親しい人々が毎年のように170人ほどホテルオークラに集まって、賑々しく誕生日を祝ってくれた。最高齢が90歳のライフストアの清水信次会長で、最年少が今年8歳といっても、盲導犬として引退する年齢になった、オレオ君だった。

 つぎつぎと賓客が登壇して、祝辞を述べてくれたなかで、「仐寿」という言葉が多かった。

 もっとも、日本では80歳(やそじ)を「仐」寿というが、「卆」寿というのと同じように、漢字のもとの中国にはない、日本製の略字だ。

 祝辞のなかで、「来年は81歳。『半』という字を解くと『八十一』になって、人生の折り返し点になります。あと82年頑張るように」と励まされたのに、意気が高揚した。

 中島繁治兄哥(あにい)が、いつもフランス人形のように美しい姐さんと手を携えて、来会してくれたのが嬉しかった。

 姐さんは春風が運んできた桃の花びらを、そのまま裁(た)ったような華やかなドレスに包まれていた。私が挨拶すると、にっこりと微笑んでくれた。

 いつの時代の句なのか、すぐに思い出せなかったが、「美妃顧我笑 粲然啓玉齒(美妃我を顧みて笑い、粲然(さんぜん)として玉齒を啓(ひら)く)」という漢詩が、頭に浮んだ。

 宴という字を解くと、屋根(うかんむり)の下に太陽のように美しい女性がいるから、宴(うたげ)になる。姐さんのお蔭で、会場が輝いた。

 男は何歳になっても、佳人(かじん)――みめかたちのよい女性に会って、眩しく感じるうちは、まだ若い。

 先の句は、漢詩に多い遊仙歌の一つだ。気っぷがよい兄者と姐さんは、いつも相伴っておられるが、日の本の最良の女夫(めおと)だ。兄者と姐さんは仙境で結ばれたに、ちがいない。

 まさに、「比翼の鳥、連理の枝」だ。比翼の鳥は、極楽鳥とも呼ばれる。『平家物語』のなかに、理想の男女の契りを「天に住まば比翼の鳥、地に住まば連理の枝」と描いているが、唐代詩人の白居易の『長恨歌』にある一節を借りたものだ。

 私も妻帯者だが、結婚は難しい。きっと夫婦の縁は天で結ばれるから、つねに雷鳴や、稲妻が絶えることがないのだろう。

 明治天皇が下された『教育勅語』は、「子ハ孝ニ」「夫婦相和シ」と命じているが、親は子を可愛がれとか、恋人は睦まじくしなさいという戒めは、ない。

 やはり夫婦が相和するのは、難しいからなのだろう。

 地球の大気には宇宙線が絶えず、降り注いでいる。

 私たちはこの宇宙線の高エネルギー粒子が滝となって、無数の衝突を繰り返すなかで、生かされている。

 あらゆるエネルギーは、衝突することによって生じるが、夫婦喧嘩も生命力を働かせるエネルギーの素なのだろう。

 結婚生活は人生における、厳しい修業の一つだと思う。禅宗のように、合理的な思考を停めなければならない。

 私は武道を嗜んでいるが、つねに礼節を旨として、勝敗に拘泥せずに、平安平静な心をもつことが重視されている。書道でも、日本舞踊でも、我を捨てた時に抑圧されず自在に、体や、手が動くようになるという。

 結婚はいっさいの論理を超越して、悟りをひらく行いであって、武道や、座禅や、ヨガの瞑想法に通じるものがある。

 これまでの半生の折り返し点といえば、40歳だった。

 この年に、福田赳夫内閣が発足した。対米折衝を手伝うように求められて、首相特別顧問という肩書を貰って、ワシントンへ向かった。

 20代から雑文書きを生業(なりわい)として、糊口を凌いできたが、そのかたわら視覚障害者を援ける障害者福祉に携わるようになってから、40年になる。その縁で、今年の誕生会にもオレオ君が、美しい全盲の演歌歌手の八汐由子さんを連れて、参加してくれた。

 だが、私たちは健常者だといっても、全員がどこかに克服すべき障害を、かならず何かしらもっているものだ。私の場合は、生来怠惰なのと、妻に対する思い遣りをしばしば欠いてしまうのが、障害だ。もちろん、反省しているあいだは、向上する望みがある。

 私は全国盲人写真展を主催してきたが、高名な写真家の審査員たちが、舌を巻くような優れた作品が多い。

 これは、盲人写真に限らない。両腕の筋力を失った若者が、口に棒をくわえて、見事なコンピューターグラフィックの絵をかく。

 私は全盲の作者による、見惚れるような写真に触れるたびに、障害者から健常者に対して、もっと努力するように励まされている思いに、駆られてきた。

 誕生会の司会と受け付けは、オレオ君も理事の肩書を持っている、(社)視覚障害者芸術支援協会のメンバーがつとめてくれた。
(文中の中島繁治氏は、掲載誌である日大OB誌発行者)


  海洋覇権を夢想する中国 尖閣諸島に迫る危機
    Date : 2017/01/24 (Tue)
 12月25日に中国初の空母『遼寧』が、駆逐艦、フリゲート艦5隻をともなって、宮古島沖を抜けて、はじめて太平洋へ向かった。

 『遼寧』は冷戦終結後に、中国がウクライナからスクラップと偽って購入し、空母に復元して、4年前に就航した。中国は大海軍の建設を進めており、さらに2号艦、3号艦の空母を建造中である。

 そのかたわら、中国は南シナ海に“海の長城”として、7つの人工島を造成して、アメリカに軍事化しないと約束したのにもかかわらず、戦闘機、ミサイルの配備を始めている。

 大陸国家が大海軍を建設して、成功した験しがない。日露戦争のロシアのバルチック艦隊と黒海艦隊、第一次大戦のドイツ海軍が、そのよい例である。

 太平洋を航行する『遼寧』は、日清戦争で巨艦を誇った北洋艦隊の再来のようなものだ。

 私は北京郊外で、西大后がつくった頤和園を訪れた時に、池のなかに設らえられた巨大な大理石の船を見たことを、思い出した。

 南シナ海に造成した人工島も、深く掘ったら海水がでてくるから、ミサイルや、航空機などの堅固な掩体をつくることができない。舞台装置のようなもので、役に立たない。

 習近平主席をはじめ中国の指導部は、愚かだ。

 中国は海洋覇権を握ろうとして、大海軍を建設することによって、周辺諸国を威嚇しているために、かえって孤立化を招いている。大陸国家が大海軍を建造して、上手くゆくはずがない。それに、中国は陸上のことは理解しても、海については無知だ。

 中国が海軍力による海洋覇権を握ることを夢想することなく、尖閣諸島をはじめとして、小さな島嶼をめぐって無用な領土紛争を起すことなく、巨大な経済力を使って、周辺諸国と友好関係を結ぶことに努めたとしたら、アジアが北京に靡いたにちがいない。

 中国は習主席が「偉大な5000年の中華文明の復興」を呼号しているように、中国が世界の中心であると信じる、自己中心の中華思想によって、すっかり毒されている。中華文明が5000年も遡るというのは神話であって、科学的な根拠はない。

 このように、中国の為政者は自己中心であるために、他民族について理解しようとせず、そのような能力を欠いている。

 中国人には、自己陶酔する性癖がある。京劇は国劇と呼ばれているが、日本における歌舞伎と違って、中国人全員を酔わせる。

 中国人は打楽器などの耳を聾する音楽、頭の頂辺(てっぺん)からでる甲高い歌声、派手に立ち回る幻想的な空間によって、誰もが快感に浸る。歴代の中国皇帝から、西太后、毛沢東、周恩来、江沢民までが、京劇の虜となってきた。習主席も、例外でなかろう。

 中国人は昔から、「吃(食)喝(酒)嫖(淫らな遊女)賭(博打)去聴戯」を、生き甲斐にするといわれてきた。「去聴戯」は、京劇のことだ。

 習主席が訪米した時に、アメリカと太平洋を二分しようと提案して、冷笑を買ったが、海洋覇権を握ろうというのも、「去聴戯」だ。

 中国は“商人の国”で、臆病だから、全面戦争を戦おうとはしない。

 だが、政権が揺らぐ時には、軍事冒険を試みることによって、人民の人気を博そうとしよう。尖閣諸島を奪いにくる、危険が迫っている。


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