加瀬英明のコラム
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  日本にとって危険信号となるサウジの「女性の運転解禁」
    Date : 2018/08/08 (Wed)
 いったい、女性が自動車を運転するのが、そんなに大(おお)事なのだろうか?

 6月24日から、イスラム世界において女性に対する差別と、もっとも宗教戒律が厳しいサウジアラビアで、女性がはじめて自動車を運転することが認められたことが、日本でも大きく報道された。

 日本はサウジアラビアに石油・天然ガスの40%と、その小さな隣国のアラブ首長国連合の20%を加えると、60%も依存している。日本が必要としている石油・天然ガスの80%が、サウジアラビアをはじめとするペルシア湾岸から、運ばれてくる。

 日本を人体にたとえたら、血液の80%がペルシア湾岸から、供給されている。

 サウジアラビアで、女性が自動車の運転を許されるようになったのは、日本に対する危険信号が灯ったようなことだ。

 もし、サウジアラビアが安定を失って、周辺も巻き込んで大混乱に陥った場合には、日本の国民生活が根元から揺らぐことになる。

 昨年、82歳のサルマン国王が、モハメド・ビン・サルマン王子を世継ぎとして擁立すると、今年、32歳の皇太子が2030年までにサウジアラビアの脱石油経済化をはかって、近代国家につくり変える大規模な計画を、強引に進めるようになった。

 いまや、皇太子は世界の注目を浴びて、MBSの頭文字によって知られるが、これまでサウジアラビアの政治が、1万人もいるという王子(プリンス)の合意によって行われてきたのにもかかわらず、ライバルの王子たちを逮捕、厖大な財産を没収などして、独裁権を手にしている。

 私はイスラム教の研究者であって、1980年代に三井物産と、日商岩井(現・双日)の中東の顧問をつとめたが、“ビジョン2030”として知られる大計画は、成功しないと思う。サウジアラビアは1932年にイギリスが砂漠につくった、多くの氏族からなる人工国家であって、もっとも力があったサウド一族によって、国名を「サウジ(サウド家の)アラビア」と、定めてきた。

 サウジアラビアは、砂漠と、棗椰子(なつめやし)と、駱駝(らくだ)の国だが、国民は先の大戦後に外国人の手によって生産される石油が、巨富をもたらすまでは、隊商が主な収入源で、農業に携わってきたイラク、シリア、エジプトの人々の勤勉な習性を欠いており、もっとも背が高い建物といえば、遊牧民のテントだった。

 それが、これまで国民が湯水のような巨額の石油の収入によって、税金、家賃、教育費、医療費、光熱費が免除され、肉体労働は外国の出稼ぎ労働者に頼るという、まるで不労所得者のような国となっていた。政府はサウド家に対する忠誠心が薄い、多くの氏族から成り立つ国民を、潤沢な石油収入によって宥(なだ)めて、安定を保ってきた。

 MBSの近代国家化プロジェクトは、2014年から原油価格が暴落したのと、急速な人口増に加えて、世界が脱石油時代へ向かっている危機感に駆られたものである。

 MBSは海外からの投資に、期待している。そのために、サウジアラビアが女性を差別しているのに対して、批判が強い両側諸国の好意を確保するために、女性に自動車運転を許すようになった。

 だが、サウジアラビアでは、2001年にサウジアラビア国籍のイスラム過激派テロリストが、ニューヨークの世界貿易センタービルを破壊した時にも、八年前にチュニジアで“アラブの春”が始まって、民主化の高波が中東を襲った時にも、危機に迫られるたびに、女性の権利を小出しに拡大してきた。

 MBSはまだ権力基盤を固めつつあるし、“2030年プロジェクト”が失敗すれば、この国が大混乱に見舞われることになる。

 私は6月に、経済産業省の担当官と意見する機会があったが、おそらく“2030年プロジェクト”がうまくゆかず、サウジアラビアの行方が危ふいという見方で、一致した。


  スウェーデンの国防の備えに日本は学ぶべきである
    Date : 2018/08/03 (Fri)
 北ヨーロッパのスウェーデンといえば、読者諸賢の多くが「スモーガスボード」という、魚貝類が中心となったスウェーデン料理を、知っていられることだろう。さまざまな料理が並び、客が好むだけ取る、日本で「バイキング料理」の語源となっている。

 スウェーデンはフィンランドとノルウェーと国境を接しており、親日国家で、人口が1012万人、国土は日本の1.2倍ある。平和国家だ。

 今年5月21日に、スウェーデン政府は『戦争、あるいは危機において、何をすべきか』と題する小冊子を、スウェーデン国民に配布した。

 この小冊子は、「敵国による侵略を蒙った場合に、侵略者に対して、国民全員があらゆる手段を講じて抵抗する」ことを、求めている。

 政府の民間防衛局によって発行されたものだが、「もし、わが国が侵略された場合に、国民は最後まで戦い、絶対に降伏しない。抵抗をやめるようにという、情報が流れたとしても、虚偽のものであるから、いっさい信じてはならない」と、述べている。

 ヨーロッパでは、4年前にプーチン大統領のロシアが、武力によってウクライナからクリミア半島を奪取し、ウクライナ東部の内戦に介入しているために、ロシアがさらに侵攻するのではないか、緊張がたかまっている。

 スウェーデン対岸のバルト海に面する、冷戦後にソ連から独立した3つの小国のエストニア、ラトビア、リトアニアを守るために、米英独、カナダ軍部隊が進駐している。

 なぜ、スウェーデンが危機感に駆られているのだろうか?

 スウェーデンとロシアの間には、フィンランドがある。
先のスウェーデン政府の小冊子は序文で、次のように述べている。

 「わが国では長期間にわたって、戦争に対する備えが、限られたものでしかなかった。

 しかし、わが国を取り巻く世界情勢が大きく変化しつつあることから、政府はわが国の防衛体制を強化すべきことを、決定した。

 平時における防衛態勢を確固としたものとすることが、戦時において国防を強靭化することになる」

 政府は侵攻を蒙った場合に、若者、壮年の男子は銃を執って戦い、婦人、高齢者は、負傷者の看護、補給などの後方支援に当たることを、期待している。

 もっとも、スウェーデンはロシアがすぐに侵攻してくることを、予想していない。10年後を、見据えているのだ。アメリカが「アメリカ・ファースト」の掛け声のもとで、米軍をヨーロッパから引き揚げてしまう可能性に備えているのだ。

 それに対して、日本はどうだろうか?

 日本を取り巻く状況が、重大な危機を孕むようになっているというのに、憲法に自衛隊の存在を書き込むべきか、不毛な論議に、国論を二分して熱中している。

 自衛隊は「憲法解釈」による、「専守防衛」の鎖によって縛られているために、敵の基地を攻撃する能力がまったくなく、敵が本土を侵すまで、戦うことを禁じられている。

 中国が虎視眈眈(たんたん)と、尖閣諸島だけでなく沖縄全体を奪おうと狙っているのに、現行憲法の呪いによって、日本独力で守ることができない。脆い国は、侵略を招く。

 一刻も早く、憲法改正が求められる。


  歴史の流れを見誤ってはならない
    Date : 2018/08/02 (Thu)
 トランプ大統領がEU(ヨーロッパ連合)、カナダ、メキシコ、日本、中国などを対象として、鉄鋼や、アルミ製品に高関税を課することを発表してから、世界貿易体制を破壊するものだとか、奇矯な決定だという批判が巻き起こっている。

 私はこの決定は、妥当なものであるだけでなく、もっと深い意味があると思う。

 大手新聞が「トランプ劇場」の一つだと報じているが、先を見透せないのだろうか。

 今回のトランプ政権による措置は、とくに中国を狙い撃ちしている。

 アメリカは7月6日から、340億ドル(約3兆7000億円)にのぼる中国製品に高関税を適用したが、さらに議会公聴会によって、160億ドル相当の中国製品の関税をあげる当否が、はかられている。

 3月に、トランプ大統領はムニューシン財務長官に、アメリカの安全保障にとって重要なテクノロジーの分野において、中国による投資を禁じるように命じている。

 中国が自由貿易体制の最大の利得者

 習近平主席がたじろぎながら、アメリカに対して報復すると表明すると、トランプ大統領はアメリカの特別通商代表に、その場合、2000億ドル相当にのぼる中国製品に、1律10ドルの関税を課することを検討するように、指示している。

 中国は経済をアメリカ市場への輸出に依存しているために、アメリカとの通商摩擦を何とか軽減しようと、努めている。そのうえ、中国国内にあるアメリカ企業が中国経済を支えていることから、活動を妨げることができない。

 今回のトランプ大統領の決定が、暴挙だといって非難する者は、通商が互恵主義にもとづくとルールによるべきで、自由な交易をできるだけ妨げてはならないと、主張している。自由貿易は参加国を潤すことによって、世界秩序を安定させていると、唱えている。

 その結果は、どうだったのだろうか?

 21世紀の華夷秩序を目指す中国

 この25年を振り返ると、現行の自由貿易体制は、巨大な専制国家である中国に、もっとも大きな恩恵をもたらしてきた。

 自由貿易体制は、世界を21世紀の華夷秩序のもとに置こうとする野望をいだく、中国を肥大化させてきた。

 アメリカは北朝鮮の核よりも、中国が南シナ海を内海として支配しようとしていることを、深刻な脅威としてとらえている。

 中国は南シナ海に、7つの人工島を造成したうえで、長距離爆撃機と対艦・対空ミサイルを配備した。

 習近平主席が2015年にワシントンを訪れて、オバマ大統領と会談した直後に、ホワイトハウスで共同記者会見を行った時に、南シナ海の人工島を「軍事化」しないことを、明言している。習氏は平気で嘘をついてきた。

 アメリカは北朝鮮より中国を脅威とみている

 習主席は、5月に訪中したマティス国防長官と会談した際に、南シナ海の人工島も含めて「祖先が残した領土は、一寸たりとも失うことができない」と、述べた。南シナ海の岩礁が、中国の歴史的な領土であるというのも、ハーグの国際司法裁判所が裁定したように、作り話でしかない。

 中国は新疆ウィグル自治区も、チベットも、中国の固有の領土だというが、満族による王朝だった清の6代目皇帝に当たった、乾隆帝(1711年〜99年)が征服した、外地である。今日の中国においても、乾隆帝は「十全老人」(老は敬称)として、称えられている。それに、満族は漢民族の祖先ではない。

 世界交易の30%以上が、南シナ海を通っており、中国が占有することがあってはならない。

 アメリカはオバマ政権以来、中国が南シナ海の人工島周辺の領海だと主張する海域に、海軍艦艇を通過させる「自由航行作戦」を行ってきたが、中国側からみれば遊覧航海のようなもので、何の効果もない。そこで、中国経済を締めつける方法しかない。

 中国は、自由貿易体制に乗じることによって、手にした富を使って、軍のハイテク化と、大規模な軍拡を強行するとともに、「一帯一路」戦略を進めて、スリランカや、紅海の出入り口のジプチなどに、軍事基地を建設するようになっている。

 EU(ヨーロッパ連合)もアメリカの覇権に甘えてきた

 もし、中国に南シナ海を支配することを許せば、中国の膨張主義を黙認することになってしまう。

 それに、アメリカの恩恵を蒙ってきたのは、中国だけではない。

 日本や、ヨーロッパの先進国をはじめとするアメリカの同盟諸国は、先の大戦後、自由貿易体制を活用して、福祉国家をつくりあげてきた。そのわきで、アメリカに甘えて、国防負担を肩代わりさせてきたが、言い換えれば、アメリカの施しによって潤ってきたのだ。

 そのかたわら、アメリカの製造業は、日本や、ドイツなどの諸国と競争するのに疲れ果てて、すっかり怠惰になっていた。

 利に聡いアメリカの経営者たちは、自由貿易体制が世界の福祉を増進すると説きながら、懐を肥やすために、国内にあった製造部門を、中国をはじめとする、人件費が安い発展途上国に移し、中国から大量に安価な製品や、部品を輸入してきた。

 かつては、アメリカの大企業が世界の他の諸国を圧倒して、大きく引き離していたというのに、アメリカの労働者たちが大量に切り捨てられ、レイオフされた。

 アメリカの企業経営者はなぜ自由貿易体制を称えるのか

 アメリカの利潤を追う企業経営者たちは、中国の興隆に手を貸してきた。

 アメリカの大手マスコミや、シンクタンクや、大学は、大手企業によって養われてきたために、アメリカが覇権を握っていた時代への強いノスタルジアにとらわれて、自由貿易体制を守るべきだという声をあげている。

 アメリカはGDPの4%を、国防費にあてている。ところが、27ヶ国のNATO(北大西洋条約機構)ヨーロッパ諸国は、オバマ政権の時に、GDPの2%を防衛費にあてると約束したのにもかかわらず、イギリス、ギリシア、エストニアの3ヶ国だけが、防衛費として2%を支出しており、NATOヨーロッパ諸国のなかで、もっとも富裕なドイツの防衛費は、1.2%でしかない。

 ドイツのメルケル首相が、防衛費をGDPの1.5%まで増やすと約束しているものの、トランプ大統領は「それでは、アメリカの納税者がとうてい納得しない」と、強く反撥している。

 2年前に、トランプ候補が「アメリカ・ファースト」の公約を掲げて、大統領に当選したのは、今後、アメリカの覇権が未来永劫にわたって続いてゆくという、神話を覆すものだった。

 アメリカの国勢調査から未来が見える

 アメリカの政府国勢調査局は、白人の少子高齢化が急速に進んでゆくかたわら、非白人の人口増加と移民によって、白人が2040年代に入ると、人口の50%を割ることになると、予測している。すでに若年人口では、非白人が多数を占めるようになっている。

 アメリカの人口は1980年に、2億2700万人だったのが、主として移民によって、いまでは3億2800二千八百万人に達している。黒人も多産だ。とくに、ヒスパニック系の人口の増加が著しい。

 これまでアメリカは、白人が『メイフラワー号』から清教徒が神の国を築くために上陸したことから、アメリカが神の使命を授かった国であり、世界を導く責任を負っていると、驕ってきた。

 だが、非白人の人口が増して、人口の過半数を超えるようになれば、世界を導く重荷を担う意識が失われてゆこう。

 トランプ政権は、すでにアメリカが覇権国家であるという傲りを、捨てている。

 アメリカが非白人の国となると、白人が世界の覇権を握った、大航海時代によって16世紀に始まった長い時代が終わることになろう。


  危機において、何をすべきか スウェーデンが配布した小冊子
    Date : 2018/07/23 (Mon)
 スウェーデンとロシアの間には、フィンランドの北部が、ひろがっている。

 スウェーデンは、人口が1012万人で、フィンランドも平和国家だ。

 今年5月21日に、スウェーデン政府は『戦争、あるいは危機において、何をすべきか』と題する小冊子を、スウェーデン国民に配布した。

 この小冊子は、国民に「敵国による侵略を蒙った場合に、全員が侵略者に対して、あらゆる手段を講じて抵抗する」ように求め、「もし、わが国が侵略された場合に、国民は最後まで戦い、絶対に降伏しない。抵抗をやめるという情報が流れても、虚偽のものだから、いっさい信じてはならない」と、述べている。

 ヨーロッパでは、4年前にプーチン大統領のロシアが、ウクライナからクリミア半島を奪い、東部の内戦に介入しており、ロシアがさらに侵攻するのではないが、緊張がたかまっている。

 スウェーデンのバルト海対岸の、冷戦後、ソ連から独立した小国のエストニア、ラトビア、リトアニアを守るために、米英独、カナダ軍部隊が進駐するようになっている。

 なぜ、スウェーデンが危機感に駆られているのか、冊子の序文が説明している。

「わが国では長期間にわたって、戦争に対する備えが、限られたものでしかなかった。
 しかし、わが国を取り巻く世界情勢が大きく変化しつつあることから、政府は防衛体制を強化すべきことを、決定した。

 平時における防衛態勢を確立することが、戦時において国防を強靭化することになる」
 
 もっとも、スウェーデンはロシアがすぐに侵攻してくることを、予想していない。近未来に、アメリカが「アメリカ・ファースト」の世論に動かされて、米軍をヨーロッパから引き揚げてしまう可能性に、備えているのだ。

 アメリカの政府国勢調査局は、白人の少子高齢化が進むかたわら、非白人移民の流入によって、2040年代に入ると、白人が人口の50%を割ると予測している。若年人口では、すでに非白人が多数を占めている。

 アメリカは1980年に2億2000万人だった人口が、いまでは3億2000万人に達している。とくにヒスパニック系の増加が著しい。

 これまで白人が、アメリカが神の使命を授かった国であり、世界を導く責任を負っていると、驕ってきた。非白人が増せば、このような重荷を担う意識が失われてゆこう。

 日本はどうだろうか? 米朝首脳会談のお蔭で、金正恩委員長がアメリカを挑発せず、米朝交渉が進められようから、向こう五年は朝鮮半島で戦争が起こらないだろう。

 日本は大急ぎで、憲法を修正するとともに、防衛力を画期的に増強する時間を、手にすることができた。天の恵みだ。

 日本にとって、北朝鮮は本当の脅威ではない。

 万一、北朝鮮が日本を攻撃しても、通常弾頭のミサイルによって、1、2万人の死者が生じるかもしれないが、アメリカが圧倒的な軍事力によって、北朝鮮を壊滅させよう。

 日本にとって深刻な脅威は、スウェーデンにとってのロシアに当たる中国だ。

 いつまで、アメリカに縋れるだろうか?

 福沢諭吉は、「今の禽(きん)獣世界に処して最後に訴うべき道は、必死の獣力に在(あ)るのみ」と説いている。


  日本の英霊が残した 人種平等の道標
    Date : 2018/07/09 (Mon)
 5月に、イギリスのヘンリー王子と、アメリカ人女優のメーガン・マークルさんの華麗な結婚式典が、ウィンザー城の教会において行われた。

 イギリス王室はウィンザー家と呼ばれるが、ウィンザー城は王家の居城である。

 この日は、よく晴れていた。ヘンリー王子とメーガンさんは、荘重なイギリス国歌が吹奏されるなかを、銀の輝く胸冑をつけた龍騎兵を従えた、お伽噺のような馬車に乗って、教会へ向かった。

 私はこの光景をテレビで観て、深く感動した。すると、不用意に胸が熱くなって、目頭が潤んだ。

 華燭の式典では、アメリカ聖公会の黒人主教が、説教壇から黒人訛りの英語で、愛について熱弁を振った。

 私はアメリカ黒人女性の聖歌隊が、黒人霊歌の『スタンド・バイ・ミー』(イエスとともに歩め)を合唱した時に、涙が頬にこぼれた。シャツの袖口で拭った。

 メーガン妃は、アフリカ系黒人だ。アメリカ黒人の母と、白人の父のあいだに生まれた。

 いまでも、白人社会では、黒人の血が少しでも混じっていれば、「黒人(ブラック)」と呼ばれる。オバマ前大統領は、父親が黒人、母親が白人だったが、黒人として扱われている。

 私はキリスト教徒ではないが、アメリカに留学した時に、黒人社会に関心があったので、何回か日曜日に、黒人街の教会を訪れて、ミサに参加した。

 ミサでは、黒人霊歌(ゴスペル)の『スタンド・バイ・ミー』が、かならず歌われた。

 ウィンザー城の教会で、エリザベス女王、フィリップ殿下、チャールズ皇太子をはじめとする、盛装した王族を前にして、何と、アメリカから招かれた黒人の聖歌隊が、この黒人霊歌を合唱したのだ。

 『スタンド・バイ・ミー』は、黒人たちがアフリカから奴隷として拉致されて、筆舌に盡せない逆境を強いられた日々に、うたった歌だった。

 イギリスの王子が黒人と結婚するのは、王室の長い歴史ではじめてのことだった。3、40年前には、考えられなかったことだった。

 これも先の大戦において、日本が国をあげて勇戦し、大きな犠牲に耐えて、アジアを、欧米の数百年にわたった苛酷な植民地支配から、まず解放し、その高波がアフリカ大陸を洗って、アフリカの諸民も解放されて独立していった結果として、人類の歴史の果てに、はじめて人種平等の世界が招き寄せられたためだった。

 アジアの民を解放するために、酷暑酷寒の広大な戦場に散華した英霊が、天上からウィンザー城の光景を眺めて、きっと嘉納されたにちがいないと、思った。

 私は幼年期を大戦前のロンドンで、過した。バッキンガム宮殿や、ロンドン近郊に親しんできた。私にとってイギリスは、“第二の母国”である。

 日本大使館員の子だったから、周辺や、イギリス人の友だちから、差別を受けることは、なかった。日本はアジア・アフリカの有色人種のなかで、唯一つの一等国だった。

 アメリカでは第2次大戦後も、国内で黒人に対する、理不尽な差別が続いた。

 ところが、独立したアフリカ諸国の外交官が、それまで黒人が立ち入れなかったホテルや、レストランなどに自由に出入りするのを見て、黒人による公民権運動が起った。

 1960年代に、マーティン・ルーサー・キング師が率いる公民権運動が、ついに実を結び、アメリカ黒人に対する法的な差別が全米にわたって撤廃されて、今日に至っている。

 日本は矢弾尽きて、73年前に鉾を収めたが、人種解放を求めた大東亜戦争は、終わらなかった。アジア・アフリカの民や、アメリカの黒人たちが戦いを続けて、今日の人種平等の世界が実現したのだった。


  あえかにわかき新妻を 君わするるや
    Date : 2018/07/05 (Thu)
 中島兄哥は、強きを扶(たす)け弱きを挫く、平成の侠客だ。気っ風がよい。姐さんは後光がさすように、微笑(ほほえ)む。

 兄哥さんは朝起きると、「向ひゐて見れども飽かぬ吾妹子(わぎもこ)」(安倍蟲麻呂、万葉集)と、口ずさむにちがいない。

 私も妻鈍(さいのろ)では、負けない。妻鈍は妻にだらしないほど甘い夫で、明治以後の造語だ。

 私は幼い時から、父から「女性と動物を苛めてはならない」と、躾けられた。

 外交官だった父・俊一(としかず)は、101歳で生涯を閉じた。その他に、とくに教えられたことはない。

 最後の日まで元気だったが、女性を大切にして、優しかったから、艶があった。

 やはり若いころから、外務官僚として新橋のお茶屋に通ったからだろう。私は中学生のころに洋食屋で、父の馴染みの芸者衆に引き合わされた。

 そんなことから、私が50を過ぎて父の家に寄ると、新橋の80歳を超える姥桜(うばざくら)が遊びにきていて、「まあ、お坊ちゃま、おおきくなられましたこと」といわれて、閉口したものだった。

 父は気障なところがあった。女性に対して、いつも凛としていた。そんなことを習ったから、私も少年のころから女性と動物を、もっぱら愛護するようになった。

 正岡子規が人は「気育」が大切だと説いているが、「気」が「艶」になるのだろう。

 男には気負いが、必要だ。意気ごみが男をつくる。

 気が天地を満たし、活力の源となる。いつも研ぎ澄まされた刀身を、心の鞘に収めていなければならない。

 刀身と同じように、匂ふような男とならねばならない。「匂ふ」は古語で「輝く、美しい」を意味する。
 
 女性に懸想し、言い寄ることを、古語で「婚(よば)い」というが、古く『古事記』『万葉集』に登場するから、男が持って生まれた性(さが)である。

 “通い婚”の時代だったから、「夜這い」とも書かれた。
たまに美女に出あうと、気が散ることもある。たまに乱れることも、正常さを保つために必要なのだ。

 私は妻と結ばれてから、明治生まれの歌人の与謝野晶子が、「かげに伏して泣くあえかにわかき新妻(にひづま)を、君わするるや思へるや」と戒めているのを、心に刻んだ。
あえかは、「かよわい、たよりない」という意味である。

 それにしても、最近の国会議員や、高級官僚は、男の矜持を欠いている。閣僚や、県知事が買春し、財務次官がセクハラで辞任するというのに、日本の男の品位が地に堕ちたことを、慨嘆せざるをえない。

 大臣や、県知事が人足ではあるまいし、平成の安物の夜鷹を買うのは、あってはならないことだ。

 財務次官が官位を笠に着て、卑猥な言葉を連発して、女性を苛めて喜ぶのは、日本が崩壊する前兆ではないか。『源氏物語』では女性を「あえかな花」(帚木)と、描いている。

 江戸時代に夜鷹は、引っ張りとか、夜発(やほつ)、辻君と呼ばれた。

 もし、武士が夜鷹小屋に出入りするところを見られたら、品位を穢したかどで、禄を奪われ、足軽の身分に落とされた。

 私は武道に携わってきたが、「心、姿勢、技」を、その順で重んじることを、旨とすべきことを教えられた。

 「姿勢」は肉体的な姿勢だけではなく、人生に対する姿勢でもある。「技」が最後にくることが、眼目である。

 高学歴の高級官僚や知事が、人足か無宿者か、女衒(ぜげん)のように卑しいのは、この3、40年の教育に、大きな欠陥があるからだ。

 現代の日本では、小学校から大学まで教えることはしても、育てることをしない。

 「心」や、「姿勢」を整えることを御座なりにして、「技」だけ教えるために、今日の惨状を招いているのだ。

 このような政治や、行政を預かる者ばかりでは、日本が遠からずしておもいやりが欠けた、心無い社会になってしまおう。

 無宿者は人別(にんべつ)帳から外されて、さすらっている者をいい、物乞いも非人として扱われたが、総じて心が貧しく、野卑で荒(すさ)んでいた。

 江戸期には全国にわたって、庶民の子を教育するために、大小2万校以上の寺子屋があった。

 すべて町や、村の地域社会の手造りの学校だった。教科書は往来物と呼ばれたが、7000種以上が現存している。
寺子屋では4年間のうちに、読み書き、算盤のほかに、農業、漁業、商業など、それぞれの地域に合わせた、生業を教えた。

 男女の師匠は、礼儀、作法、精神修養にことさら厳しかった。教育は何よりも徳育だった。このようにして育てられた庶民が、幕末から明治にかけて、輝かしい近代の日本を建設した。

 技しか知らない者は、巾着切(きんちゃくき)り(掏摸(すり))か、空き巣狙いと、かわらない。

 幕府には教育を担当する役人が、1人もいなかった。私は文科省を廃止して、教育を地方社会に委ねるべきだと思う。
夜這いは平安時代には、けつして下卑(げび)た行為ではなかった。「婚(よば)い」とも、「懸想(よばい)」とも、書かれた。男たちは相問歌や、懸想文(よばいぶみ)に、一輪の花を添えて、あえかな花を摘みに、思い人のもとに通った。

 女は男を映す鏡だ。このような下卑た男ばかりでは、日本にとって、何よりも大切な宝である女が劣化する。
 
 私は日本の美風を守るために、女性を大切にしてきた。これからも、心と姿勢を正してゆこうと、決めている。

(中島繁治氏は日大OB誌『熟年ニュース』主催者)


  明治維新150年に思いを馳せ、“自立の精神”を奮い起こそう
    Date : 2018/07/02 (Mon)
 私は5月22日の産経新聞の見出しをみて、「えっ」と、驚いた。

 「自衛隊『違憲』25%、『合憲』57% 本社・FNN合同世論調査」というものだった。

 今年は、日本がサンフランシスコ講和条約によって、ふたたび独立国として立ち直ってから、もはや66年もたっている。

 それなのに、まだ、いったい自衛隊が合憲なのか、違憲なのか、国論を2つに割って対立しているというのは、つくづく情けないことだと思う。

 いったい、日本は自立した国なのだろうか。あまりにも、異常なことではなかろうか。

 25%の人々は、もし自衛隊が違憲だということになったら、自衛隊を解散して、非武装国になることを、選びたいのだろうか。それとも憲法を改めて、自衛隊を国軍として認めたい、というのだろうか。

 もし、日常生活で暴漢によって襲われることがあったら、憲法も何もあったものではない。

 自己を防衛するのは、本能から発しているし、天与の権利である。

 自己を正当に守ることについて、国家も、個人も、変わりがないはずだ。

 それなのに、現行の日本国憲法は、陸海空軍を保有することを禁じているうえに、どの独立国であっても持っている、交戦権を奪っている。

 外国から、武力によって押し付けられた憲法を、70年近くも、後生大事に戴いている国は、世界のなかで日本しかない。

 アメリカ軍が占領下で、現行憲法を日本に強要して、日本が再びアメリカと戦う力を持つことがないように、“丸裸”にしたが、日本の平和のためでなく、“アメリカの平和”のためだった。

 日本を丸裸にしてしまえば、日本が未来永劫にわたって、アメリカに縋らなければならない属国となることを、はかったのだった。

 大戦が終わったばかりのアメリカは、日本が自立することを、恐れたのだった。

 日本国憲法を「平和憲法」と呼ぶことに、私は両手をあげて、賛成したい。しかし、「アメリカの平和のための憲法」として、占領下で自由を奪われていた日本に、有無を言わせずに、押し付けられたのだった。

 日本は占領下で、国の旗の日の丸を揚げることすら、禁じられていた。そのあいだ、自分の手で憲法を制定することが、もちろん許されるはずがなかった。

 国家は国民と国土によってだけでなく、精神によって、成り立っている。国家の何よりの基本的な条件は、自立する精神である。

 今日の日本は現行憲法のもとで、精神が薄弱な、精薄の国となっている。

 今年は、明治維新150周年に当たる。日本は幕末から、明治38年に国をあげて日露戦争を戦って、勝利を収めることによって、独立を守り抜いて、今日の日本を築いた。これは、自立の精神がもたらしたものだった。

 幕末から明治にかけた先人たちが、今日の日本を眺めて、アメリカへの従属憲法を改める気概を欠いているのを見て、どう思うことだろうか。

 朝鮮半島危機と、中国の脅威が、急速に募るなかで、いまこそ明治維新150年に、思いを馳せるべきである。

 国の行く末と、平和を祈る心は、宗教心と一つのものである。


  「米朝首脳会談中止」騒動、米の圧力は中国にも向いている
    Date : 2018/06/21 (Thu)
 トランプ大統領が、6月12日にシンガポールで予定されていた、米朝首脳会談を直前に中止することを発表して、北朝鮮の金正恩委員長を狼狽(うろた)えさせた。

 私はかねてから、本誌のこの欄で、北朝鮮が核を棄てることはありえなく、文在寅大統領と金正恩委員長による南北首脳会談は“安手の韓流ドラマ”にすぎなかったし、米朝首脳会談が実現しても、空ら騒ぎに終わろうと、論じてきた。

 トランプ大統領が“リトル・ロケット・ボーイ”と呼ぶ、金正恩委員長は米朝首脳会談に執心している。北朝鮮にとって米朝首脳会談が行われれば、国際的地位が大きくあがるが、それなしには、哀れな、みすぼらしい小国でしかない。

 南北首脳会談や、米朝首脳会談を行わず、中国も含めて北朝鮮に対する経済制裁を、粛々と進めてゆけばよかった。

 私は4月30日から、ワシントンを4泊で訪れて、トランプ政権を支える人々と、朝鮮半島危機について話した。

 着いた晩に、国防省の親しい友人と夕食をとったが、「世界は30年ぶりに、“ベルリンの壁”が崩壊するところを見るだろう」といって、米朝首脳会談によって北朝鮮が核を放棄することになると、自慢した。

 私は「まさか。金正恩(キムジョンウン)がよほど愚かだったら、そうなるだろう」と、答えた。

 私はホワイトハウスの前の小さな公園をはさんだホテルを、常宿にしている。バーで金正恩(キムジョンウン)の愛嬌ある似顔絵が描かれた、コースターが使われていた。ちょっとした、北朝鮮ブームだった。

 だが、トランプ大統領も6月の会談を中止したものの、金委員長に一撃を加えたうえで、米朝首脳会談を開くことを望んでいる。金委員長が懇願した結果、再調整されたが、本誌が発売されるころに実現しているかどうか。

 別の政権の関係者は、もっと現実的だった。

「われわれは中国が北朝鮮に核放棄を迫らないかぎり、北朝鮮が核を手離すことはない。米朝交渉を続けるあいだに、中国に強い圧力を掛けてゆくことになる」と、語った。

 トランプ政権にとって、ほんとうの敵は、中国だ。

 北朝鮮の核ミサイルは、まだ戦列に配備されていないし、成層圏から目標へ向かって再突入する、終末段階(ファイナル・フェーズ)の摂氏7000度に達する高熱に耐える技術を持っていない。

 アメリカにとって、中国の南シナ海進出のほうが、差し迫った脅威だ。

 中国の脆い点は、中国経済が対米輸出に依存していることだ。

 中国はアメリカに寄生している、パラサイトだ。トランプ政権は中国の弱点をとらえて、揺さぶろうとしている。

 これから、商務省が諸国による自動車、自動車部品の対米輸出がアメリカの工業ベースと、安全保障を脅かしていないか、調査を始めるが、もし、“黒”となった場合には、天井知らずの関税をかけることができる。

 帰京後に、トランプ大統領が自動車、自動車部品に20%から、25%の高関税をかける方針を発表したが、これはEU(ヨーロッパ連合)、カナダ、メキシコ日本との貿易交渉にあたってテコともなるが、中国へ向けたものだ。

 中国は自動車部品の対米輸入で、巨額を稼ぎ出しているうえに、安価なEV車をアメリカへ輸出することをはかっており、すでに売り込みが始まっている。


  神社に宿る日本人の「和の心」
    Date : 2018/06/07 (Thu)
 4月24日に、カナダ最大の都市トロントで、男がバンを運転して、歩行者を次々とはね、多くの死傷者が発生する事件が起った。まだ、犯人の動機が判明していないが、イスラム国(IS)がかかわるテロ事件ではないか、疑われている。

 ヨーロッパも、イスラム過激派のテロに戦(おのの)いている。中東では、シリア、イエメン、リビアをはじめとする諸国で、イスラムの2大宗派のスンニー派と、シーア派による凄惨な抗争に、出口が見えない。宗教戦争だ。

 もっとも、アフリカ、アジアに目を転じると、イスラム教徒がキリスト教徒を迫害しているだけでなく、中央アフリカ共和国では大多数を占めるキリスト教徒が、ミャンマー、タイでは多数を占める仏教徒が、弱者のイスラム教徒を圧迫して殺害している。

 ミャンマーでは、事実上の最高指導者である、アウンサン・スーチー女史が黙認するもとで、イスラム教徒のロヒンギャ族を迫害している。70万人のロヒンギャ族が国外に脱出し、数百人が虐殺されている。

 タイでは、分離独立を求める南部のイスラム教徒を弾圧して、この15年だけで、7000人以上のイスラム教徒が殺害されている。

 スリランカでも、人口の70%を占める仏教徒が、17%に当たるイスラム教徒を迫害して、多くの生命が失われている。

 日本では、仏教は平和の宗教だと思っているが、日本のなかだけで通用することだ。

 インドは平和国家として知られているが、毎年、多数派のヒンズー教徒がイスラム教徒を襲撃し、多数の死者が発生している。イスラム教徒が、ヒンズー教の聖牛である牛を殺して、食べることから敵視されている。

 アメリカでも、人権が高らかに謳われているのにかかわらず、人種抗争が絶えない。「個人」が基本とされている社会だから、人々が対立しやすく、人と人との和を欠いている。銃による大量殺戮事件が多発している。

 中国では、漢民族が新疆ウィグル自治区でイスラム住民を、世界の屋根のチベットでジェノサイド(民族抹殺)をはかっている。

 そこへゆくと、日本は幸いなことに、太古の時代から宗教戦争と、無縁であってきた。

 「宗教」という言葉は、明治に入るまで漢籍に戴いていたが、使われることがなかった。

 明治初年に、キリスト教の布教が許されるようになると、それまで日本には他宗を斥ける、独善的な宗派が存在しなかったために、古典から「宗教」という言葉をとってきて、あてはめたのだった。

 それまで、日本には「宗門」「宗旨」「宗派」という言葉しかなく、宗派は抗争することなく、共存したのだった。

 「宗教」は、英語の「レリジョン」(宗教)を翻訳するのに用いた、明治訳語である。

 英語の「レリジョン」、フランス語の「ルリジオン」、ドイツ語の「レリジオン」の語源であるラテン語の「レリギオ」は、「束縛」を意味している。

 「個人」も、明治訳語だ。日本人は世間によって生かされ、そのなかの一人だった。

  日本人のなかで、日本人は年末になると、クリスマスを祝い、7日以内に寺の“除夜の鐘”を謹んで聴いて、夜が明けると初詣に急いで、宗教の梯子をするからいい加減だと、自嘲する者がいる。

 だが、これが日本の長所であり、力なのだ。古代から「常世(とこよ)の国信仰」といって、海原の彼方から幸がもたらされると信じた。日本では何でも吸収して、咀嚼して役立てるのだ。

 神道は私たちが文字を知る前に生まれた、心の信仰であって、文字と論理にもとづく宗教ではない。人知を超える自然を崇めるが、おおらかで、他宗を差別せず、中央から統制する教団も、難解な教義も、戒律もない。

 神社を大切にしたい。私たちは、心の“和”の民族なのだ。


  大嘗祭は国事として行うべきである
    Date : 2018/06/04 (Mon)
 1年以内に、新天皇が即位され、御代(みよ)が替わる。

 前号で、私は天皇陛下が来年4月30日に退位され、皇太子殿下が翌日、第126代の天皇として即位されるのに当たって、もっとも重要な祭祀である大嘗祭(だいじょうさい)を寸描した。

 126代も続いてきた天皇が、日本を日本たらしめてきた。

 天皇は日本にとって、何ものによっても替えられない尊い存在であり、日本国民にとって、もっとも重要な文化財である。

 大嘗祭は来年11月に、皇居において催される。大嘗祭は法律的にすでに皇位につかれておられるが、天皇を天皇たらしめてきた民族信仰である惟神(かむながら)の道――神道によれば、まだ、皇太子であられる皇嗣(こうし)(お世継ぎ)が、それをもって天皇となられる。聖なる秘儀である。

 私は前号で大嘗祭に当たって、皇太子が横たわれ、しばし、衾(ふすま)(古語で、夜具)に、身をくるまられると、述べた。

 これは、天照大御神の皇孫に当たる瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が、「豊葦原(とよあしはら)の瑞穂(みずほ)の国(くに)を治めよ」という神勅に従って、赤兒として夜具にくるまれて、天孫降臨されたことから、皇太子が身を衾に包む所作を再演されることによって、瓊々杵尊に化身されるものである。

 今上天皇が今年の新年に宮中参賀のために二重橋を渡った、13万人をこえる善男善女に、皇后、皇太子、皇太子妃、皇族とともに会釈され、お言葉を述べられたが、天皇はモーニングを召された瓊瓊杵尊であられた。

 天皇は皇位をただ尊い血統によって、継がれるのではない。

 日本では、日本神話が今日も生きている。神話は諸外国では、遠い昔の過去のものであって、ただの物語でしかない。日本は時空を超えて、永遠に新しい国なのだ。

 歴代の天皇は、日本を代表して神々に謙虚に祈られることによって、徳の源泉として、国民を統(す)べて、日本に時代を超えて安定(まとまり)をもたらしてきた。

 神道は、人知を超えた自然の力に、感謝する。世界のなかで、もっとも素朴な信仰である。

 教義も、教典ない。人がまだ文字を知らなかった時代に発しているから、信仰というより、直感か、生活態度というべきだろう。

 神道は、人が文字を用いるようになってから、生まれた宗教ではない。感性による信仰だから、どの宗教とも競合しない。

 宗教法人法によれば、宗教法人は教義を広め、信者を教化する団体として、規定している。神道は布教しないし、もし宗教であれば、「信者」と呼ばれる人々も、存在しない。

 アメリカ占領軍は、自国では国家行事や、地方自治体の式典が、キリスト教によって行なわれていたのにもかかわらず、まったくの無知から神道を、キリスト教と相容れない宗教だと信じて敵視して、日本に「政教分離」を強制した。当時のアメリカは、日本を野蛮国とみなしていたのだった。

 政府は日本が独立を回復した後にも、現行憲法下で、天皇を天皇たらしめている宮中祭祀を、皇室の「私事」として扱ってきた。

 私はかねてから、宮中祭祀は国民の信仰の自由を浸すことがないし、日本国民にとって何より重要な無形文化財であると、主張してきた。

 大嘗祭は、国事として行うべきだ。現行憲法は皇室と日本の姿を、歪めている。


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